病院勤務犬って?入院患者の体と心を癒す「勤務犬」の仕事内容

犬を抱きしめる入院中の女性

人と犬は長い共存の歴史を歩んできました。猟犬や盲導犬、牧羊犬、警察犬、救助犬……人はさまざまな形で犬を使役し、現在もともに助け合いながら生活しています。

そして令和の現代、新しい使役犬の形として注目されているのが「病院勤務犬」です。

今回は、入院患者やリハビリ患者のために活躍する病院勤務犬ついてご紹介します。

この機会に病院勤務犬の役割を知り、ぜひ知識を広げてくださいね。

病院勤務犬とは?

犬と触れ合う車椅子の男性

病院勤務犬とは、病棟内で患者の心身をケアするために活躍する使役犬です。

医師や看護師と同じように正式な職員として扱われ、勤務犬としての職員証も所持しています。

2022年現在、日本で病院勤務犬が正式に導入されているのは、神奈川県川崎市に所在する聖マリアンナ医科大学病院のみです。

「勤務犬」は聖マリアンナ医科大学病院の商標登録であるため、今後他の総合病院で病院勤務犬が導入された場合は名称が変わる可能性も考えられます。

病院勤務犬の2つの役割

寝そべって犬と遊ぶ少女

病院勤務犬には、「動物介在活動」と「動物介在療法」の2つの役割があります。

動物介在活動

動物介在活動とは、患者さんの集まる場所へ行って直接的な触れ合いを行い、患者さんの心を和ませる活動です。

必ずハンドラー(リードを持つ人)とともに行動し、安全を保持した上でスキンシップを行います。

動物と触れ合うことによる情緒的な安定やレクリエーション、QOL(Quality of Life:生活や人生の質)の向上などが主な目的です。

動物介在療法

動物介在療法とは、医師や看護師の計画のもとで行われる補助医療行為を指します。

主に患者さんの治療やリハビリに介入することにより医療をサポートします。

補助医療行為は、医師の資格を持つ者しか行えない医療行為と違い、病院勤務犬のような無資格者でも行える行為です。

医療チームの一員として病院勤務犬が治療現場に参加することで、患者さんの情緒不安を解消したりリハビリへの意欲を生ませたりして、医療効果を高めることを目的としています。

病院勤務犬の細かな仕事内容

犬と触れ合うリハビリ中の男性

ここでは、病院勤務犬の主な仕事内容をご紹介します。

病棟訪問

病院勤務犬に任されている大きな役割のひとつが、病棟訪問です。

手術や検査、リハビリで入院をしている患者さんや、長期入院で心身ともに疲弊してしまっている患者さんを対象に、病室やコミュニティエリアを訪問します。

病院勤務犬は、持ち前の愛らしい姿とフワフワの被毛、高いコミュニケーション能力で患者さんの心を癒します。

「ただそこにいてくれるだけで心が癒される」という存在感は、人間ではなかなか演出できません。

病院勤務犬と触れ合う楽しさが治療やリハビリへの大きな励みとなり、患者さんの行動力を促します。

手術室へのサポート

病院勤務犬は、手術が必要な患者さんを手術室に連れていき、麻酔がかかるまでのサポートも行います。主に小児科に入院している子どもに向けた役割です。

まだ精神的にも肉体的にも幼い患者さんは、度重なる手術や検査で心細くなるものです。

病院勤務犬は手術に不安を感じている患者さんの病室に赴き、リードを握ってもらいながら手術室へ案内します。実際に手術室の中にも同行し、麻酔に必要な点滴を打つまでそばで見守ります。

とくに複数回の手術を必要としている小児科の患者さんにとって病院勤務犬が与えてくれる勇気は大きく、付き添ってもらうことでスムーズな全身麻酔を受けられるのです。

患者の治療やリハビリへの介在

病院勤務犬は勇気だけではなく、実際の治療やリハビリにも参加します。

とくにリハビリ運動への役割は大きく、病棟カンファレンスを行い個々の目標達成に向けて介入します。

動物介在療法に期待される効果

笑顔で犬に触る親子

治療やリハビリの補助

病院勤務犬はリハビリが必要な患者さんに対し、輪投げやボール投げを通して訓練のサポートを行います。

例えば上肢に麻痺が残っている患者さんが投げた輪やボールを病院勤務犬が拾い、再び患者さんの手元へ持ってきます。まるでペットと公園で遊ぶような和やかさが生まれ、患者さん自身も楽しさや癒しを感じながら前向きにリハビリに取り組めるのです。

他には腕を動かすリハビリのために病院勤務犬を撫でることもあります。少しずつ病院勤務犬との距離を離すことで、スタッフに励まされながら腕を伸ばす訓練になるのです。

この訓練には自分の力だけで動かす「自動運動」が期待でき、一人でリハビリに取り組むよりもより高い達成感や幸福感を得られます。

情緒不安の解消

病院勤務犬に限らず、もともと動物と触れ合うことには情緒不安の解消効果があります。

ペットを飼育している人であれば、犬や猫を抱きしめたときに「ホッ」と安心し、癒された経験があるでしょう。

病院勤務犬においても同様の効果が見込まれます。

健康と将来に不安を抱える入院患者さんが病院勤務犬と触れ合うことにより、フワフワとした毛並みや体温を感じて不安が和らぎ、病気や術後の疼痛(とうつう:ずきずきと疼くような痛み)が軽減するといわれています。

治療やリハビリに前向きにさせる

長い闘病生活では、もともと精神的に強い人でも心が弱ってしまうものです。ときには治療に後ろ向きな気持ちになってしまったり、治癒の可能性を諦めてしまいそうになったりすることもあるでしょう。

病院勤務犬は重い病気と闘う患者さんに寄り添い、情緒の安定のみならず闘病意欲の向上を促進させることも目的としています。

また患者さん当人だけではなく、支える家族の情緒安定もサポートします。

日本で動物介在療法を取り入れている病院

犬とハイタッチをする男性

2022年現在、日本で病院勤務犬を導入し、動物介在療法を取り入れている総合病院は聖マリアンナ医科大学病院のみです。

ここでは、聖マリアンナ医科大学病院にて病院勤務犬が導入された経緯や歴史をご紹介します。

聖マリアンナ医科大学にて総合病院初導入

神奈川県川崎市の聖マリアンナ医科大学病院で病院勤務犬が導入されたのは、2015年の4月です。

「犬が普通に病院の廊下を歩く」という光景を実現するのは、当然ながら簡単なことではありません。実際、感染対策や犬アレルギーの人への対応などさまざまな課題に悩まされたそうです。

医局員の家族が盲導犬協会の会長と交流があったことがきっかけとなり、日本介助犬理事のサポートを借りながら動物介在療法導入委員会を立ち上げました。

そこから2年間の準備期間を経て、日本介助犬協会から黒いスタンダードプードルから貸与されたのが病院勤務犬の始まりです。

初代病院勤務犬「ミカ」とは?

初代病院勤務犬として貸与されたスタンダードプードルは「ミカ」という名前で、大学の職員として勤務するに至りました。

小児外科医がハンドラーを担い、緩和ケアチームの一員として仕事に取り組みます。ミカは2015年4月から2017年3月までの2年間で、96件の動物介在療法を担いました。

その結果、動物介在療法を導入する以前よりも「苦痛が軽減された」「入院生活に楽しみができた」「治療に前向きに慣れた」と答えた人は93人に上ったのです。

初代病院勤務犬として多くの患者さんの体と心をケアし続けたミカは、2018年12月に8歳を迎えたことにより引退しました。

3年間の勤務を経て、患者さんだけではなくご家族や職員にも笑顔が増え、ミカを通して勇気や優しさの輪が広がったのです。

引退後はハンドラーと共に過ごし、2021年12月7日、多くの愛に包まれながら永眠しました。

ミカの歩んだ道程は書籍となり、今なお病院勤務犬の役割や意義を啓蒙しています。

現在は2代目勤務犬「モリス」が活動中!

ミカが現役を引退した直後の2019年1月から現在(2022年)にかけては、2代目の病院勤務犬であるモリスが同じく聖マリアンナ医科大学病院にて活躍しています。

モリスはミカと同じスタンダードプードルです。病棟訪問や手術室への同行、治療やリハビリのサポートなど、ミカと同じように患者さんたちの心身をサポートしています。

手術室に来ることに大きな不安を抱えていた小児科の患者さんも「モリスとなら行く!」とがんばってくれるケースも多いのだとか!

病棟内で犬を活動させる懸念への対策

犬と一緒に寝る夫婦

患者さんにポジティブなメッセージを与えてくれる病院勤務犬ですが、中にはもちろん犬が苦手な人もいます。

犬アレルギーを持っている人や、犬が病棟内を歩くことを快く思わない人もいるでしょう。

病院勤務犬を導入している聖マリアンナ医科大学病院では、「病院勤務犬との接触を避けたい」人のための導線経路を確保した上で動物介在療法に取り組んでいます。

また、もともとは週に2回、患者さん一人につき30~40分程度の触れ合い時間を確保していましたが、コロナ禍で勤務体制が変化しました。緊急事態宣言中は活動を中止し、現在も週1回に減らし感染予防に努めています。

介入が終わった後は必ず全身を拭いて乾かし、ブラシをかけて休憩を取った上で次の患者さんの元へと向かいます。

さらに患者さんにも手洗いと消毒を徹底してもらうことで、院内感染を予防しているのです。また外来はさまざまな人たちが訪問するため接触を避けています。

さらにモリスは、定期的な抜き打ち検査で衛生面のチェックを受けています。今までに基準値を下回ったことはなく、徹底的な衛生管理のもとで勤務している証明となっています。

過去に院内で病院勤務犬に関する苦情や事故が起こったケースは1件もなく、人と犬の安全な共生が守られている好事例といえるでしょう。

まとめ

笑顔で犬と並ぶ女性

今回は、現在の日本では聖マリアンナ医科大学病院のみで活躍している病院勤務犬についてご紹介しました。

「病棟で犬が働くって大丈夫なの?」と思う人もいるかもしれません。しかし実際の現場では衛生面において厳格なのケアを行った上で、犬が苦手な患者さんへのフォローもしながら活動させています。

何より病院勤務犬がもたらす癒しや勇気の力は大きく、過去にも数多くの患者さんの心を支え、治療やリハビリに前向きにさせた実績があります。

2022年7月現在では、総合病院における病院勤務犬の活躍現場は1ヵ所のみです。しかし今後病院勤務犬の実績がより広まり評価されることで、他の病院でも活躍の場が広がっていくのではないでしょうか。

病気と闘う人たちの心を癒し、治療への活力を与える病院勤務犬。これからもぜひ、彼らの活躍を応援してくださいね!

聖マリアンナ医科大学病院「動物介在療法」

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フリーライター/ボーカリスト。元・ペットショップのお姉さん。 大手ペット販売会社にて、販売頭数・ペット保険取得数にて表彰経験有り。得意ジャンルは、ペット/恋...

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