13歳の保護犬と出会い、家族になりました~現在進行形です~

こんにちは、獣医師兼鍼灸師のライターです。

現在、保護犬と暮らしています。みなさんは「保護犬」とはどんな犬かご存知ですか?

保護犬は、様々な事情から飼い主と離ればなれになってしまったり、遺棄されたり、飼育放棄され、動物愛護団体や動物愛護センターなどで保護されている犬たちのことです。

ペットショップで販売されている子犬たちと異なり、彼らの年齢は幅広く、中には10歳を超える高齢犬もいます。

犬は10歳を超えると、色々な病気を患ったりするので、こういった保護犬は新しい家族が見つかりにくいだけでなく、愛護団体の方も譲渡を躊躇されることがあるようです。

私が迎えた保護犬は13歳のラブラドール・レトリバー。

この犬種の平均的な寿命は10~15歳・・・。

愛護団体の方には最初、遠まわしに断られました。

それでも、なんとか家族になることができ、今それなりに幸せに暮らしています。

今回は、そんな私たちの出会いから現在までをお話します。

愛犬との出会い

当時、私は犬関連の専門学校で週に1回、非常勤講師として働いていました。

ある新学期に、その学校で働くドッグ・トレーナーさんがパートナー犬以外に見慣れない犬を連れていました。

とても愛らしい顔立ちの小柄なラブラドールの女の子です。

犬種の割に、ちょっと反応が薄い大人しい子で、年齢を尋ねると12歳とのことでした。

愛犬の過去

ドッグ・トレーナーさんは一般の方の愛犬を預かりトレーニングをしたりすることがあるので、そのためかと思っていたら違いました。

ドッグ・トレーナーさんは動物愛護団体の責任者でもありました。

そのラブラドールは1歳の頃にドッグ・トレーナーさんがブリーダーさんから引き取った子で、3歳の時に新しい飼い主さんを見つけて譲渡したけれど・・・飼い主さんの事情により12歳で出戻ってきたとのことでした。

ドッグ・トレーナーさんは

その子の最後を看取るつもりであること。
大人しい犬なので学生たちのドッグ・トレーニングに参加させるつもりであること。
トレーニングが少しボーっとしているその子の刺激となればよいと思っていること。

などを話してくれました。

獣医師としての職業柄、ついつい気になってしまったので、ドッグ・トレーナーさんの了承を受けてその子の身体をチェックさせてもらいました。

年齢相応にあちこちに不調があり、治療が必要そうなところもありましたが、全般的な健康状態はそれなり良好そうでした。

週に一回、彼女と会うようになって、お昼休みなどに語りかけたりマッサージをしたりするようになると、反応が薄かった子がマッサージを止めると前肢を伸ばして「もっとしてほしい」と意思表示をするようになってきました。

声をかけると尻尾が少し振れるようにも。

出会ってから1ヶ月も経たないうちに彼女に会える日を毎週楽しみに思うようになった自分がいました。

そして、G.W.で2週間会えなかった時には寂しく思うようにさえ。

出会った日から家族には彼女のことを伝えていた私は、家族に「ラブラドールの高齢犬を引き取っていいか?」と尋ねました。

思い返せば、一目ぼれだったのかもしれません。

高齢犬を受け入れる覚悟

とある事情で、数年前に11歳の末期癌の犬を迎え入れ、1年に満たない生活のあと癌性腹膜炎のため安楽死を選択していました。

その2年後に生後数週間で迎え入れた愛猫が16歳で腎不全のため亡くなりました。

次に迎える子も何かの事情を抱えて飼い主が必要な子を、と思っていましたが、重い病気で続けざまに愛犬と愛猫が旅立ってしまったので、「次に迎える子は絶対に若い子!一緒に暮らせる時間が長い子がいい!!」と断言した私に、家族は淡々と「好きにしたらいい。誰かと出会える時は出会うから。」と。

それが一転、高齢犬を迎えたいと言い出した私。

家族が言うように「出会える時」がきて「出会った」のかもしれません。

残念ながら思い描いていた「若い子」ではありませんでした。

相応の覚悟が必要です。

一緒に暮らせる時間はどう考えても少ないであろう年齢でしかも大型犬・・・足腰が立たなくなって介護が必要になるかも。

腫瘍疾患が比較的多くなってくる年齢・・・また、何度もの手術や抗癌剤治療の果てに泣きながら安楽死を選択しなければいけないかもしれない。

心不全や慢性腎疾患が出てきてもおかしくない年齢・・・お薬や点滴が毎日必要になって、下の世話も大変になってくるかもしれない。お薬に頼っても、次第にごはんを食べなくなってやせ細り腕の中で亡くなってしまうかもしれない。

それでも、家族はやっぱり「好きにしたらいい」と言ってくれました。

相談もなく末期癌の子を引き取ることを決めてきた家族は、私にも自由にさせてくれる人でした。

「ただ、猫と暮らせるの?」とだけ確認してきました。

当時、我が家には13歳の愛猫がいたのです。

先住猫とくらせるか?

ドッグ・トレーナーさんには彼女が猫と暮らせる犬かどうかを聞いてみました。

彼女は愛護団体で猫との同居経験があり、猫たちに踏まれ慣れていて、踏まれても怒らない穏やかな性格であるとのことでした。

一緒に抱き合って眠るくらい仲良かった同居猫が亡くなってから、愛猫は寂しそうにしています。

なんとなくですが、大丈夫かもと思えました。

ダメなら1Fと2Fで住み分けてもらえばいいだけのこと。

なんとかなるでしょう。

次の週からドッグ・トレーナーさんに彼女を正式に引き取りたいと伝えました。

「家族の同意は得ましたので、愛猫となじめるようなら家族に迎えたいです」と。

「わかっていると思いますが、犬種的に長く生きても15歳くらいですよ。」
「病気の多い犬種ですし、年齢的にも腫瘍になりやすいですよ。」

などなど、とても譲渡に消極的でした。

「彼女の体重なら寝たきりになっても介護できます。」
「大切に育てて最後まで看取ります。」

繰り返し伝えることで6月の半ばにようやくお試し期間を頂けることになりました。

お試し期間の前に準備を開始

迎え入れる前に、最低限の準備が必要です。

まずは食器と水入れ、フードは愛護団体の方にどんなフードをあげているか聞いてそれを用意しておきました。おやつも何種類か準備しました。

次に首回りを測って体重を聞いておいたので、それに合う首輪とリードを探し、トイレ用に大判のトイレシーツとマナー袋も準備しました。

身繕いのためには、爪切りとブラシ、歯ブラシ、歯磨きペーストも必要です。シャンプーや耳洗浄剤も。

そして何より大切なクレートとクレート内に敷くマット

犬にとってのクレートは安心安全の象徴であり、愛猫と隔離するためにも必要不可欠です。

中でクルッと回れて寝転がれる大きさのものを探しました。

万が一、同居が無理だったとしても、色々揃えたものは無駄にはなりません。

そのまま動物愛護団体に寄付すれば良いだけのことです。

きっとどこかで誰かの役に立つでしょう。

同居初日~愛猫の反応は?~

迎え入れる頃には、彼女は一つ歳を重ね13歳となっていました。

愛猫と同じ年齢です。

愛猫が2Fで待つ我が家へと迎え入れました。

自宅に着き、お水とご飯を食べてもらった後は1Fの居間に用意したクレートを見せ、ハウスの訓練を開始しました!

さすが愛護団体仕込みの犬です。

「ハウス」の一言でおやつのあるクレートに速やかに入りました。

訓練はいらなかったですね。

クレートへ何度か出入りさせて慣れてもらった後、クレート内で休ませ扉を閉じ愛猫と対面してもらいました。

愛猫は不審げな顔をして扉の匂いを嗅ぎ、内部の彼女に気づいてシャーシャー言っていましたが、猫パンチは出ませんでした。

彼女はクレート内で小さく小さくなっていました。

しばらくしてシャーシャーを言い飽きた愛猫は彼女用の水入れから水を飲み始めました。

水飲みの共用は、OKなんだね・・・。

愛猫が2Fに戻ってから彼女をクレートから出し、室内を探検させました。

その音に反応してか、愛猫が階段を下りてきて覗いていました。

彼女の大きさにびっくりしているのか、居間の入り口から遠巻きに見てはいましたが、シャーシャーはなりをひそめていました。

夕ご飯の頃には、同じ居間の中で(愛猫はカウンターテーブルの上ではありますが)、一緒に過ごすようになっていました。

順応早いね、ふたりとも・・・。

同居初日の夜に顔面が腫れました!

夕ご飯後、彼女の歯磨きをしようとし歯ブラシを口にいれると嫌がりました。

「何故?」と思って顔を見ると左顔面がみるみる腫れていきます。

「眼窩下膿瘍(がんかかのうよう)」でした。

重度の歯周病があった歯の根元に膿がたまり目の下が腫れてしまったのでした。

おそらく、いつ発症してもおかしくなかった状態だったところに、環境変化によるストレスがかかったことが引き金となったのでしょう。

腫れが引くまではその部分の歯磨きはあきらめることに。

同居初日から歯周病の治療開始です・・・。

先住猫が受け入れてくれたので同居決定!

最初は遠巻きに見ていた愛猫も、彼女がじっとしていると恐る恐る近づいていくようになり、1週間もすると同じハウスに入りこむほどになりました。

お試し期間は2週間もらいましたが、1週間目に愛護団体に連絡し正式に我が家の家族となりました。


■仲良くなった頃、愛猫が我が物顔に愛犬のクレートを占拠していました。私は写真がへたくそなので、不細工に見えますが、ふたりとも実は美人です!

飼い主登録♪

家族となった嬉しさを噛みしめながら、早速市役所に行って飼い主登録をしました!

これで誰が何と言おうと「うちの子」です。

堂々と「我が家の愛犬です!」と言えるようになりました。

その年の狂犬病ワクチンはすでに動物愛護団体で接種済みでしたが、飼い主登録したことで、次の年から市役所から「飼犬関係書類」が届き、狂犬病予防接種の時期を知らせてくれるようになりました♪


■飼い主登録した頃の写真です。美犬でしょ?首輪の下のオレンジの物体は夜の散歩用のミニライトです。

その後

眼窩下膿瘍と歯周病の治療後は毎日の歯磨きによって、現在もほとんどの歯を維持でき口臭も少ないままです。やっぱり、歯磨きって大切と実感します。

最初の年は何度か外耳炎や皮膚病を患いましたが、早期治療を行いつつ、耳周りの毛や皮膚病を起こしやすい部分の毛をこまめにトリミングしたり、薬用シャンプーで定期的に身体を洗ったり、と予防をしていくことで今では滅多に皮膚トラブルは起こらなくなりました。

哀しい体験をした保護犬に多くみられる分離不安症に関連する症状もありました。

我が家の愛犬の場合は、肢先をよく舐める行動やひとりぼっちにされると様々なものを飲み込んでしまう行動となって現れました。異物のおかげで命にかかわるような状態になったこともあります。

残念ながら高齢犬に多い病気にも幾つかなってしまいました。

ホルモン反応性尿失禁特発性前庭疾患、変形性関節症、そして、あちこちの腫瘍です。

目の中に腫瘍ができたので片目を摘出することになりました。15歳の時です。

今はお腹の中に腫瘍を抱えていますが、幸い良性のようで現在数か月に1度の検査で経過を観察しているところです。


■眼科専門獣医師の手術を受けて3年目の頃の写真です。笑っているような目に整えてくれたのか、ウインクしているみたいな顔になりました。まぶたの奥には義眼が挿入されています。恰幅がだいぶよくなっています。

最後に

高齢犬をひきとることは生半可な覚悟では難しいかもしれません。

たとえそれが一目ぼれであっても高齢犬は持病が色々ある可能性が高いだけでなく、次々と病気にもなり易いもの。

お迎えして1~2年内にお別れしなければならないことさえあります。

費用もかなりかかります。大型犬であれば、より一層に。

しかも、年齢によってはペット保険に入れません。

それでも、覚悟を決め、自身や家族が納得したうえで一緒に暮らせるのであれば、とても沢山の幸せを運んできてくれます。

我が家の愛犬は15歳の時に片目になりましたが、ボール遊びが大好きで、いまだにボールを追いかけてくわえて持ってきます。

PCに向かっていると、鼻でつんつんとつつき、嬉しそうな顔で見上げてくれます。

今も気付けば足元におもちゃが二つ並んでいたりします。

迎えたばかりの頃、愛犬は寝ながら「ひゃんひゃん」、「キューン、キューン」と哀しそうな声で寝言をいってはすぐに飛び起きていました。

その度に撫でたり抱きしめたりしているうちに、哀しそうな寝言は少なくなり、夜はクレートではなくお布団で寝たがるようになりました。

「先に寝てていいよ」といっても一緒に眠るまでウロウロしています。

一緒に寝ていると布団の半分以上を占めるくらい自由に四肢を伸ばすようになりました。

おかげで布団はシングルからセミダブルに変更です。犬用マットも横にはおいてあるのですが・・・。

ピレネーの出てくる某CMを見た時にはつい笑ってしまいました。

もうすぐ、出会ってから6年目を迎えます。

驚くほど長く、一緒に暮らせています。

あとどれくらい過ごせるかは神様だけがご存知なのでしょう。

愛猫はすでに旅立っています。

愛猫ロスの私を愛犬が支えてくれました。

様々な過去をもつ保護犬や保護猫は色々大変ですが、大変な分だけ幸せも沢山くれるかもしれません。

愛猫たちや愛犬たちとの出会いを考えると、「一目ぼれ」や「運命の出会い」って本当にあるような気がします。

もちろん家族の巻き添えによる出会いも「運命」なのでしょう。

「運命の出会い」があったら、保護犬や保護猫たちの最期の家族になってみるのも一つなのかもしれません。