犬の「断尾」の理由は?現代にも続く断尾の習慣はやめるべき?

コーギーの後姿

現在の日本では、コーギーやトイプードルなどの一部の犬種に断尾(だんび)を行うことが一般的です。

断尾の習慣があるからこそ「その犬種らしさ」が感じられるということもあります。

しかし「なぜ断尾を行うのか」「断尾はどのように行うのか」まで理解している人は少ないのではないでしょうか。

今回は、犬の断尾の歴史や理由、方法、そして断尾のこれからについて解説します。

断尾の捉え方は千差万別です。

この記事が断尾の是非について考えるきっかけになれば幸いです。

犬の断尾の歴史

川で遊んでいる犬

牧羊犬の機能を損なわないため

断尾の歴史を理解するためには、人類と使役犬(人間のために利用される犬)の関係を知ることが重要です。

使役犬の中でも代表的なのが、牧羊犬です。牧羊犬は、牧場で放牧をしている家畜の見張りや誘導を行います。

羊や牛などの群れを誘導する際、尻尾を踏まれることを防ぐために断尾の習慣が生まれました。

猟犬の怪我・感染症防止のため

牧羊犬と同じく、ダックスフンドをはじめとする猟犬も人間と密接に関わってきた使役犬です。

狩猟は山や森など自然豊かな場所で行われるため、木の枝や棘で耳や尻尾を怪我する可能性があります。

猟犬は負傷すると役に立たなくなってしまうため、怪我から守るために選んだ方法のひとつが断尾です。尻尾の傷が原因で感染症を発症することも防げるため、有効な方法と考えられていました。

また、猟犬が睡眠中に尻尾で自分の鼻を隠し、嗅覚が下がることを防止したという説もあります。

闘犬の弱点を減らすため

犬同士を闘わせる「闘犬」においても断尾の習慣があります。

闘犬では相手の体を噛むことが主な攻撃手段であるため、弱点となる尻尾をなくすことで勝ちやすい犬を目指しました。

狂犬病の感染予防のため

西洋では、狂犬病が何度も流行した歴史があります。

狂犬病のワクチンが一般化していなかった時代では、感染の可能性を減らすために噛まれやすい尻尾を切り、安全性を高めたといわれています。

断尾は狂犬病対策のおまじないとしての側面も強かったそうです。

税金対策のため

1700年代後半のイギリスでは、愛玩犬に課税を行っていました。

しかし断尾を行うことで「使役犬の証明」になることから、税金対策として行う習慣がありました。

愛玩犬への課税がなくなった今でも、利便性を兼ねそなえた「時代の名残りの習慣」として断尾が残っています。

現在の断尾の理由

おすわりをしているプードル

現代の断尾は「審美目的」

現在でも使役犬として活躍する犬は、業務のために断尾をされています。

しかし世界の大多数の犬は、愛玩犬としての「審美目的」で断尾をされているのが現状です。

犬種として伝統的な「あるべき姿」が求められるため、断尾をした方が市場価値が高まる傾向があります。

特に日本を含めるアジア圏では「純血統への憧れ」が強いために犬種標準(この犬種はこういうものである、という概念)を求められやすく、断尾の慣習が受け入れられています。

つまり現代の断尾は、ブリーダーやペットショップなどの愛玩犬の流通過程の中で行われる「顧客のニーズに合わせるための行為」といえるでしょう。

ドッグショーに出場するための規定

日本の畜犬団体「ジャパンケネルクラブ」では、日本国内の犬の品種の認定や犬種標準の指定、ドッグショーの開催、血統書の発行などを行っています。

「ジャパンケネルクラブ」の犬種標準では、一部の犬種が断尾されていることを前提としています。また、断尾が禁止されている国に向けた犬種標準も細かく定めています。

一部ブリーダーはその規定に沿った「犬種として美しいスタンダード」を目指すために断尾を行うのです。

一般社団法人 ジャパンケネルクラブ

断尾をすることが多い犬種

飼い主と走るドーベルマン

以下は、現在も慣習的に断尾が行われている犬種です。

・アイリッシュテリア
・アメリカンコッカースパニエル
・イングリッシュスプリンガースパニエル
・ウェルシュコーギーペンブローク
・ウェルシュスプリンガースパニエル
・ウェルシュテリア
・エアデールテリア
・オーストラリアンシェパード
・オーストラリアンテリア
・オールドイングリッシュシープドッグ
・キングチャールズスパニエル
・クランバースパニエル
・ケリーブルーテリア
・コッカースパニエル
・サセックススパニエル
・ジャイアンドシュナウザー
・ジャックラッセルテリア
・ジャーマンショートヘアードポインター
・ジャーマンワイアーヘアードポインター
・シルキーテリア
・シーリハムテリア
・スキッパーキ
・スタンダードシュナウザー
・スタンダードプードル
・スパニッシュウォータードッグ
・スムースフォックステリア
・ソフトコーテドウィートンテリア
・トイプードル
・ドーベルマン
・ナポリタンマスティフ
・ノーフォークテリア
・ノーリッチテリア
・ハンガリアンビズラ
・パーソンジャックラッセルテリア
・ピンシャー
・フィールドスパニエル
・ブラッコイタリアーノ
・ブリタニー
・ブリュッセルグリフォン
・ブービエデフランダース
・ボクサー
・ミニチュアシュナウザー
・ミニチュアピンシャー
・ミニチュアプードル
・ヨークシャーテリア
・レイクランドテリア
・ロシアンブラックテリア
・ロットワイヤー
・ワイアヘアードフォックステリア
・ワイマラナー
(五十音順)

犬の断尾のやり方

メスを持つ医者

生後一週間以内に無麻酔で行う

犬の断尾の方法は大きく分けて2種類存在します。

1つ目は「切断法」で、獣医師がメスやはさみなどを使い尻尾を切り落とす方法です。

生後1週間以内(主に生後3~4日)の子犬の尻尾を、麻酔をせずに切り落とします。

無麻酔の理由は、生後1週間以内の子犬は痛覚が発達していないといわれているためです。

尾の付け根を縛り壊死させる

2つ目の方法は「結紮(けっさつ)法」です。

結紮法は獣医師免許を持っていないブリーダーが主に行う方法で、尻尾の付け根を輪ゴムやゴムバンドなどできつく圧迫し、血流を遮断して壊死させます。

壊死した尻尾が自然に落ちたら断尾の成功です。尻尾が落ちる日数は平均3日で、結紮法のために付け根を縛りあげる道具もあります。

断尾のメリット

砂浜で走るヨークシャテリア

犬種のイメージを守る

断尾を行うことで犬種標準を守り、イメージを守ることができます。

私たちは犬種それぞれに「こうあるべき」というイメージを持っています。街中で見かけるコーギーやトイプードルたちの多くが断尾をされているため、犬種を聞けば同じような犬の姿を思い浮かべるはずです。

断尾をすると犬種のイメージが守られるため、市場価値も上がります。

現在も使役犬として働く犬を被害から守る

技術の発展に伴い昔よりも数は減ったものの、現在でも人間と共に働く使役犬は存在します。

断尾のルーツとして色濃い牧羊犬や猟犬だけではなく、軍用犬や災害救助犬、番犬、警察犬、盲導犬なども使役犬です。

現在も働く使役犬たちを怪我から守ったり、仕事の成果を出したりするために断尾が行われます。

お尻周りが汚れにくい

断尾をすることで尻尾が肛門周りに触れづらくなるため、排泄物による汚れを防止します。

尻尾への付着も減るため、皮膚疾患も予防できるでしょう。

断尾のデメリット

手術を受ける犬

苦痛を伴う可能性がある

生後1週間以内の子犬に無麻酔で断尾が行われるのは「痛覚が発達していないから」といわれていますが、実際は「本当に痛みがないのか、はっきりとした証明ができない」のが現状です。

一説によると「痛みを表現する能力がないだけなのでは」ともいわれています。

医学的な証明ができない以上、切られる際に苦痛を伴う可能性は否定できません。

失敗や感染症の危険性がある

切断法でも結紮法でも、断尾の失敗により感染症にかかる可能性があります。

過剰な出血や傷口からの感染症を伴えば、断尾後にさまざまな後遺症を患うことになるでしょう。

身体能力が低下する可能性がある

犬は走ったり泳いだりするとき、尻尾を動かすことにより体のバランスを取る生き物です。

断尾をすることで尻尾の身体的機能が失われ、平衡感覚や身体能力が低下する可能性があるといわれています。

感情表現の手段を奪っている可能性がある

私たちは犬の尻尾の動きから感情を読みとりますが、犬同士も尻尾を使って意思の疎通をします。

2007年に行われた研究によると、断尾された犬は他の犬から警戒される傾向があったとのことです。

尻尾による犬のコミュニケーション手段を奪うことで、相手に感情や気持ちをうまく伝えられなくなる可能性があります。

断尾は動物虐待と見なされる?

犬を膝にのせる女性

現在の愛玩犬の断尾は、ほとんどが「見た目のため」に行われています。

本来は感染症や痛みのリスクを踏まえてまで断尾をする必要のない犬たちが、人間に愛されるために断尾をされているのです。

動物愛護の視点から断尾を反対する意見も存在し、ヨーロッパではイギリスやスイスなど断尾を禁止している国もあります。

同じヨーロッパ圏内でもフランスやポルトガルなどは禁止していないことから、世界各国でも断尾のあり方が日々議論されていることがわかります。

日本では、断尾にまつわる法律の制約はありません。

一見すると「人間のために切る必要のない尻尾を切るなんて……」と非難を受けそうな断尾の習慣ですが、現在続く断尾は犬種標準や純血統への憧れだけが理由ではありません。

牧羊犬・猟犬をはじめとする「古くから断尾が行われてきた犬の歴史」や「人と共存する犬種の伝統」を守るために、断尾に肯定的であるべきという意見もあるのです。

断尾は、人と犬の共存の結果生まれた「文化」です。

流行や文明は流動的に変わっていくものだからこそ、「変わらずに後世に伝えるべき文化」として断尾を尊重する意見もあります。

また、現代が資本主義の世の中である以上、犬種の「こうあるべき姿」が守られることで市場価値が上がり、経済が活発化するのは当然です。

もちろん、今後法律で断尾が一斉に禁止される可能性もあるでしょう。アメリカでも、動物福祉の観点から断尾を禁止する動きが出ています。

断尾を「かわいそう」という気持ちだけで否定せず、なぜ断尾が必要とされるのかを理解することが大切だといえるでしょう。

まとめ

外で飼い主を待つ犬

今回は、犬の断尾の歴史や現状についてご紹介しました。

犬種標準の存在や、日本では断尾が禁止されていないことを含め、断尾の慣習は感情論だけで否定できるものではありません。

断尾の文化は、人と犬の過去数百年の歴史と「スタンダードを守り後世に伝えようと努力するブリーダー」の存在が関連しています。

今までもそうであったように、法律や文明はどんどん変わっていくものです。これから先、世界や日本での「断尾のあり方」も変化を遂げるかもしれません。

一人ひとりが断尾の是非を真剣に考えることで、人と犬の共存のあり方はより良いものになっていくでしょう。