献血で救う命。供血犬と献血ドナー登録について知って欲しいこと

聴診器で遊ぶボーダーコリー

私が動物看護師として勤務していた病院には、院長がペットとして飼っていたニューファンドランドという大型犬がいました。

大きな黒い熊のよう容姿でありながら、とても温和な性格でした。

そしてその子は院長の大切な家族であると同時に、動物病院において獣医師や動物看護師と共に患者の命を救う仲間でもありました。

「供血犬」として血液を提供してくれるとても大きな存在だったからです。

あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、今回は獣医療に大きく貢献をしている供血犬について解説したいと思います。

より多くの方に供血犬のことを知ってもらうことで、救われる命が増えるはずです。

供血犬とは

獣医師と二頭の犬

供血犬とは、病気や事故などで輸血が必要なときに血液を提供してくれる犬のことです。

獣医療では、人のように輸血用の血液を必要なときに提供を受けられる「血液バンク」のような体制がありません。

そのため、輸血が必要になったときに血液を提供してくれる供血犬が必要なのです。

供血犬は個々の動物病院が独自に確保しているのが現状であり、病院で飼育されている犬か、ボランティアによるドナー登録をしてもらっている犬か、いずれかしかいません。

献血ドナー登録の条件

ハート形の医療マーク

自分の犬をドナー登録しようと思っても、その方法を知っている方は多くないでしょう。

実はドナー登録は、個々の動物病院にて管理されています。

動物病院はドナーとなるための条件を設けており、内容は病院ごとに若干の違いがあります。詳細は直接問い合わせてみてください。

ドナー登録の一般的な条件は、以下の通りです。

・年齢が1~8歳
・体重が15kg以上
・フィラリア予防、混合ワクチン接種、狂犬病予防接種を行っている
・健康である
・麻酔を使わなくてもおとなしく採血ができる
・輸血を受けたことがない
・妊娠・出産をしたことがない

献血ドナー登録から献血までの流れ

それでは実際にドナー登録するときの流れについてお伝えします。

登録するだけであれば、動物病院に申込み(=献血の意向を伝える)をした時点で完了です。

その後は、動物病院から協力の要請があるまで待機となります。

事前に血液検査をして輸血が必要なときだけ依頼があるか、定期的に依頼があるかなど病院によって形式は異なります。

ここでは「ドナー登録の申込みから献血まで」の詳細について説明します。

犬の献血について具体的な流れを知ることができるため、不安要素もなくなるでしょう。

申し込み

申込みは、各動物病院に直接することになります。

ただし、全ての動物病院がドナー登録を受け付けているわけではありません。

ホームページや院内掲示でドナー募集をしているところもあれば、表立って募集していないところもあります。

ドナー登録条件を満たしていることを確認した上で、供血犬としての登録の意向があることを動物病院に伝えてみてください。

各種検査

獣医師に口の中を見られる犬

実際にドナー登録し献血することになったら、登録条件にもある「健康体であるかどうか」の検査をします。

検査結果は数値化・データ化され、目に見える状態にすることが重要です。

検査内容は登録される動物病院ごとに多少の違いはあります。

なお多くの動物病院ではこれら検査にかかる費用は病院負担で行ってくれますが、念のため事前に確認しておくことをおすすめします。

(1) 問診

登録条件にあるワクチンなどの予防が済んでいるか、そして現在の健康状態について確認されます。

常日頃から食欲や元気があるか、変わったことがないかを観察しておくことが大切です。

また、ワクチン接種証明書が必要になることもあるため、事前に確認しておきましょう。

(2) 身体検査(聴診、視診、触診)

飼い主も気付いていない、隠れた病気がないかを確認します。

外から見ただけではわからないところで大きな病気が進行していることもよくあるため、定期的に動物病院で身体検査をしてもらうとよいですね。

(3) 血液検査

血液検査は、供血犬の健康状態を把握するため、そして輸血するのに適した血液か判定するために行われます。

そのため、採血する量はほんの少しです。

この血液検査で問題なく輸血できると判断されれば、いよいよ献血のための採血になります。

負担のない献血をするために

医療用具とぬいぐるみ

献血は犬にとって負担がゼロかといえば、そうではありません。

そのため、以下のような基準を設け、できるかぎり供血犬への負担がないように考慮されます。

・採血量は犬の体重により調整される(目安は200~400ml)
・次の献血まで3~4ヶ月程度の期間を空ける

また、安全に採血するため、犬自身へのストレスを減らすためにも、採血時に落ち着いていられる性格であることが大切です。

身体検査をしてもらった上で、犬への負担を少なくしてもらえれば、安心して献血ができるでしょう。

なぜ犬の血液バンクは存在しないのか?

人の医療には必要なときに血液を提供してもらえる血液バンクが存在しますが、現在の獣医療にそのような体制はありません。

実現するにはさまざまな問題があり、日本ならではの理由もあります。

それらを知ることで、供血犬の存在について考えるきっかけになるとよいですね。

事業として難しい

獣医療において血液バンクが存在しないのは、事業として存続させることが難しいという理由があります。

人の場合、全国の街中に献血ルームや献血バスが存在し、多くの方の善意で血液の提供を受けています。

そこで得られた血液は日本赤十字社によって様々な過程を経て、輸血を必要とする患者の元へ届けられます。

この血液を医療機関に届けた時に得られる収入で事業が成り立っているわけですが、犬の場合、まず安定して血液を確保できません。

確保できたとしても、どれほどの需要があるのか不透明です。事業を成り立たせるだけの需要がなければ十分な収入が得られず、継続は難しくなります。

また、採血したものを他の病院へ供給するとなると、安全性や品質を確認した上、国の承認が必要になるなど法律の問題も関わってくるでしょう。

つまり、現状では問題となる要素が多いため、獣医療における血液バンクは存在していないのです。

小型犬の人気が高い

ハートを描いた毛糸とチワワ

犬の血液バンクが難しい理由に、安定した献血が得られないことをあげました。

得られない背景には、日本では「狭い家でも飼いやすい小型犬が人気」という事実があります。

ドナー登録条件にあるように、15kg以上の中型犬から大型犬が献血対象になるため、小型犬が人気の日本では供血犬となる犬が少ないのです。

供血犬、献血ドナーの認知度が低い

安定した献血が得られないもうひとつの理由として、供血犬やドナー登録があまり認知されていないことがあげられます。

人の献血のように様々な広告媒体を利用できれば認知度が上がるかもしれませんが、そのためには主導する事業者やお金が必要です。

現状では、動物病院やボランティア活動による啓蒙に頼らざるを得ないでしょう。

犬の献血の現状

これまで犬の献血を安定して確保するのは難しいこと、そして供血犬は院内飼育もしくはボランティアに頼っていることもお伝えしました。

一方で、誰にでも犬の献血活動のためにできることもあります。

犬の献血の現状と、個人ができることをお伝えします。

動物病院内ドナー

院内ドナーとは、病院で飼育されている供血犬です。

「シロちゃん」という供血犬が動物病院内の劣悪な環境で飼育されていたことが話題になりましたが、もちろん多くの動物病院で飼われている供血犬は違います。

病院スタッフの一員として大切にされ、家庭で飼われている犬と同じ生活を送っている子がほとんどです。

それでも供血犬としての目的で飼育されていることに、モヤモヤを抱える方は少なからずいるでしょう。

ボランティア

四頭のラブラドールレトリバー

一般の犬の飼い主がドナーとして動物病院に献血を申し出ることがボランティアになります。

輸血を必要とする犬がいつ現れるか、どの程度の量の血液が必要になるかわからないため、多くのドナー登録があればそれだけ助かる命が増えます。

しかしドナーになるための条件があること、犬の献血について認知されていないことで、ドナーを集めることは簡単ではありません。

あなたにできること

献血により助けられる命があるのは確かですが、貢献するにはどうすればよいでしょうか?

犬を飼っている方が誰にでもできる、とてもシンプルな方法があります。

それは健康管理です。

健康管理をすることで、自分の犬を守るだけでなく、いずれ他の犬を助けられる可能性を広げます。

ワクチンなどの予防をしっかり行い健康を維持できれば、ドナーとなれる子が多くなります。

何より輸血が必要となる病気やケガのない健康な毎日を過ごすことが、1番の貢献です。

まとめ

紙に描かれたハートマーク

供血犬は、輸血を必要とする病気や事故にあった犬のために必要な存在です。

多くの人が興味を持ち理解することで供血犬の認知度が上がれば、助かる命につながります。

まずはできることから始めてみてくださいね。