【日本ペット歯みがき普及協会】ペットのための歯みがきコラム①歯みがきの重要性について

「歯ミガキマン」として日本中をかけまわり、これまで9都道府県40回以上、累計頭数1,000頭以上のペットたちの歯みがきを指導する歯みがき教室を開催し、毎回歯みがき教室は満席・リピーターが絶えない『赤津先生』やかまくらげんき動物病院で院長もつとめる『石野先生』、動物の行動と心理を専門とするヒューマン・ドッグトレーナー『須﨑先生』にペットの歯みがき初心者でもできる大事なことをシリーズで教えてもらいます。
第1回目の今回は、『石野先生』が担当してくれます。
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歯は、とても大切なもの
甘いものが大好きで虫歯になり、歯医者さんで痛い目にあった記憶をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
いっぽうで、歯磨きをそんなにしていないけど虫歯が一本もない人がいることも事実です。
動物は人に比べ虫歯は少ないです。その理由は、人と動物は口腔内環境が異なり、アルカリ性に傾いていて酸性環境下が好きな虫歯菌が生息しづらいからです。
しかし、反対に歯周病は多く、立派な歯が抜けてしまうことも残念ながらよくあることです。
歯周病は、かつて人では不治の病と恐れられていました。
歯が痛い、歯がぐらつく、抜ける、だけでなく今では全身に影響を及ぼす細菌感染症として、治療法は沢山あります。
動物においては、一度抜けてしまった歯は戻ることはなく、歯がなければ歯周病にはならないので、全身麻酔で全抜歯することもあります。
ペットは歯がなくてもご飯を食べることはできますので、ぐらぐらな歯がなくなればむしろ快適といえるかもしれません。
しかし野生動物において歯を失うことは、敵と戦う牙(武器)を失い、物をすり潰せなくなり、噛み切る歯がなければ食べることが不可能になるため、生死に関わる大問題であることを忘れてはいけません。
動物にとって歯で物をくわえたり、噛んだりする仕草は、人でいうと、手で物を触ることと同様だと考えられています。いわば歯は、手であり、感覚器のセンサーの一部と考えるならば、とても大切なものです。
歯周病と人類の戦い
人の歯周病の歴史は意外にも古く、約10000年前には食物を加工して食べていたので、口腔衛生の悪化により歯周病が発症していました。その頃から何らかの方法で歯を磨くことを始めたと言われています。
歯周疾患の症状や治療法、器具などに関することは1000年前の書物に記載が残っており、現代における歯石除去と同様の行為が既におこなわれていたことをうかがい知ることができます。
人類と歯周病との終わりなき戦いであり、それは動物も同じであるということをまず認識しましょう。
野生の猿と飼育された猿との口腔環境の比較調査をした有名な研究があります。
木の実や果物、根菜類を食べている野生の猿の口腔環境は極めて良好であり、歯周疾患は認められませんでした。
いっぽう、人工飼料で飼育された猿では大量のプラークと歯石が認められ、口腔環境は極めて悪く、多くが人と同じような歯周疾患に罹患していたというものです。
人も猿も食べ物を調理しない状態で食べていれば、口腔衛生環境は良好で健康的な歯周組織を維持できていたと考えられます。
主な差は、調理したやわらかいものを食べていると咀嚼の必要性が低下することで、唾液分泌量が減少し、唾液による口腔内自浄作用が低下、食への道の四面に付きやすくなり口腔内環境の悪化へと繋がります。
しかし、調理しないものだけを食べて生活することは困難であり、それはペットにおいても同様です。
歯周病とその対策 歯ブラシの歴史
歯周病とは、歯垢中の細菌が原因となって歯と歯肉溝周囲の歯肉から炎症が始まる疾患です。
そして歯を支える歯槽骨を溶かし、ひどい例では顎の骨が折れてしまう恐ろしい細菌感染症なのです。
アメリカでは3歳以上の犬猫の約8割は歯周病と言われ、日本においては、約1歳齢の小型犬の約9割は歯周病であると言われています。
決して高齢になってから起こる病気ではなく、若齢の時から罹患するので気にしていないといけない病気であることを覚えておきましょう。
ですから幼少期から対策を取る必要があるという事なのです。
さて、10000年前からの悩みについて人類はどのように対抗していったのでしょうか。
現代における人のデンタルケアの基本軸は歯ブラシによるブラッシング、デンタルフロスによる歯間の汚れとりです。
どんなに良い治療をしても、ブラッシングを怠れば歯周病や虫歯にすぐになってしまいます。
歯ブラシは宋の時代(960~1279年)に考案され、シルクロードを経てヨーロッパに伝わりました。歯磨きは、歯科先進国としてスウェーデンが有名ですが、歴史をたどると東洋が発祥なのです。
最初の歯ブラシは牛の角、牛・ラクダの骨を柄にして馬の毛を植えたものでした。
上流階級の人だけが象牙、金、銀、動物の骨の柄に豚・馬の毛を植えて使っていて、中にはアコヤガイで装飾が施されたものもありました。
庶民においてはあまり歯磨きの習慣はなかったようです。
その後1935年にアメリカのデュポン社がナイロンを開発し、歯ブラシとして世界に広まりました。
ペットの歯周病対策においても歯ブラシは重要です。
歯と歯茎の間の歯周病菌をかき出し、空気の嫌いな歯周病菌の勢力を弱めるために、ブラッシングで空気を送り込むことが重要です。
歯周病菌は空気が嫌いなので、なんとかして歯茎に空気が入り込まないよう色々作戦を立てています。細菌も生き残るため必死なのです。
歯の周りには、ややねばついている「ペリクル」という薄い膜があります。
酸から歯を守る大事な働きを担ういっぽう、口腔内細菌の付着を誘導します。歯の表面の「ペリクル」にくっついた細菌や食べカスは次第に歯垢の壁を作ります。
時間が経つと石灰化して歯石となり、歯と歯茎の堺が埋まり空気が遮断され歯周病菌にとっては大変居心地の良い環境となってしまいます。
そうなってしまうと歯磨きだけではどうにもならなくなってしまいます。
歯ブラシがなぜ必要かというと、以下のためです。
①食べカスとペリクルをとる
②ペリクルにくっついている細菌をとる
③形成された歯垢をとる
④歯と歯茎の隙間にブラシの先端を当て空気を送り込む
食べカスとペリクルの除去が毎日の歯磨きで行われていると快適な口腔内環境になると思いませんか?
赤津先生が歯みがき初心者のギモンに答えます!「ナニから始めたらいいかわかりません!」
■犬の歯みがきをする赤津先生
全国で歯みがき教室を行う中で、参加する皆さんから「歯みがきを始める前にナニから始めればいいですか?」という質問をいただくことが多いです。
私からいつもお伝えしているのは「普段からのコミュニケーションが大切」ということです。
コミュニケーションの一環で撫でることやマズルを触ることなどをしてあげると良いでしょう。
その時は、飼い主さんが楽しそうな顔で、声をかけながら触るとワンちゃん・ネコちゃんもマズルを触れることに慣れていきます。
このようにすることで、これから歯ブラシを使った歯みがきをする際にワンちゃん・ネコちゃんも楽しい時間が始まると思ってくれるようになります。(歯ミガキマン・当協会代表理事・赤津先生)
まとめ
柔らかい食事によって歯周病になりやすくなったことが、ペットだけではなく私たちにも言えますね。
可愛い愛犬・愛猫の歯を日頃から守れるのは飼い主様しかいません。
諦めたり、放置したりせず、人間と同じく犬の歯みがきも毎日の習慣化していただきたいと思います。
今回紹介したことをぜひお試しください。また次回お会いしましょう!
参考文献:
CLINICAL CALCIUM VOL.11 No.3 2001 歯周疾患治療の歴史 島原政司
ジェネラリストのための犬と猫の歯科診療 藤田圭一編著 緑書房
参考資料:
歯の博物館 Web サイト 公益社団法人神奈川県歯科医師会
参考図書:
ものと人間の文化史 177 歯 大野粛英著 法政大学出版局
![]() (一社)日本ペット歯みがき普及協会代表理事 全国各地で「歯ミガキマン」として活動 |
![]() (一社)日本ペット歯みがき普及協会理事 《かまくらげんき動物病院/院長》 |
![]() (一社)日本ペット歯みがき普及協会 設立:令和3年11月8日 事業内容:ペットの口腔ケアに関する知識・技術の普及、施術士の育成及び講習会の開催、施術士の技術基準の策定、公表及び資格認定、動物愛護精神の更なる啓蒙※一部抜粋 HP:https://jpd-a.or.jp/ |
記事提供:一般社団法人 日本ペット歯みがき普及協会